多自由度コロキウム

第四回(2009/2/23)

周期発火する神経細胞の数理とその工学的応用

2/23(月) 13時30分〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 三浦佳二氏(ハーバード大学,さきがけ研究員)
  • 要旨

神経細胞が周期的に発火する時には、細胞状態の時間発展を記述するための微分方程式を、 位相を表わす一変数の微分方程式に縮約することができる。 この数理的枠組みを利用すれば、互いに結合した神経細胞の発火時刻が やがて同期するかどうかの判定が、任意の神経細胞に対して可能となる。 本講演では、グローバル結合した神経細胞の集団を考える。 発火時刻が同期せずに完全にばらばらであるような、いわゆるメリーゴーランド状態に注目し、 その状態が安定となる条件を、任意の結合強度に対して解析的に求める。 また工学的応用例として、この神経回路の雑音整形機能を解析的に評価する。

第三回(2008/10/27)

情報演算子を用いた量子力学の再構築

10/27(月) 13時30分〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 高野健一氏 (豊田工業大学物質工学系)
  • 要旨

量子力学の理論,特に量子情報理論では密度演算子で1つの系の振る舞いを 論じることが多い.密度演算子で1つの系を記述する理由は,系を波動関数で 記述するだけの十分な情報がないからと思われる.ところが,密度演算子を定 義に戻って考えると,これは多数の同等の系すなわちアンサンブルについての 平均を表現するための記法である.したがって,密度演算子を直ちに1つの系 の記述に用いるのは誤りであるか,結果として正しいとしても,少なくとも論 理に飛躍がある.また,密度演算子によって観測過程を正しく記述することは できていないように見える.従来の量子力学の公理系の枠内でこれらを解決す ることは不可能に見える.
 ここでは,1つの系を記述する「情報演算子」というものが存在することを 要請して,それが可能となるように量子力学の公理系を再構築する.新しい公 理系は,観測過程も例外とせずに含むものである.情報演算子は,数式的には 密度演算子と類似しているが,1つの系の情報を直接的に表現するため,全く 異なった扱いとなる.特に,同じ時刻における同じ系が複数の情報演算子によ って記述される.また,情報演算子を構成する(ヒルベルト空間の)ベクトル を物理的な状態と解釈することは放棄する.すなわち,状態の概念なしに公理 系を構成でき,全ては系に関する情報についての議論だけとなる.このため, 観測にともなう波動関数の収縮の問題は存在しない.再構築した量子力学の公 理系は,従来の量子力学の観測以外の結果はそのまま再現する.観測過程は, 観測対象と測定器という2つの系の相互作用として記述でき,POVMのような観 測のための付加的な公理は不要である.多自由度系である測定器の方に拡張し た意味での凝縮が起こっているとして,観測過程を説明する.

  • 参考文献

Ken'ichi Takano,Reconstruction of Quantum Mechanics with Information Operators

第二回(2008/6/9)

試験管内の概日時計

6/9(月) 15時〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 伊藤浩史氏 (名古屋大学 理学研究科)
  • 要旨

毎日の睡眠覚醒、葉の就眠運動、冬眠、鳥の渡りなど生物には周期的な現象がし ばしば観察される。これらはまとめて生物リズムとよばれる。中でも24時間周期 の"概日リズム"が有名である。概日リズムを生み出す中心振動体,"概日時計"の 実体はどこにあるのか?この問いにはさまざまな説が提出されては覆されるとい う長い研究の歴史が存在する。 シアノバクテリアという細菌にも概日リズムが存在する事が知られていたがその 起源を探る過程で破壊すると概日リズムが消失する遺伝子群"kaiA,B,C"が同定さ れた。またKaiCリン酸化リズムとよばれるBZ反応のような自律的に振動する生化 学反応が発見された。その振動に必要な因子はkaiA,KaiB,KaiCの3つのタンパク 質とATPだけであった。さてこの試験管の中で再構成される振動現象は、概日リ ズムの中心振動体とみなせるのであろうか?私が関わったいくつかの研究からこ の点を議論したい。

第一回(2008/5/26)

Ising型双極子相互作用系の熱力学と構造形成

5/26(月) 15時〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 鈴木将氏 (名大COE)
  • 要旨

極性分子、高分子といった粒子が構造をもつ、あるいは異方的な相互作用をする 系においては、Lennard-Jonesポテンシャルのような単純粒子系には見られない 特性・相転移などがしばしば観察される。  これらのなかで、極性分子における双極子相互作用に注目し単純化した dipolar spheres ・ Stockmayer fluid 等のモデルの熱力学について近年盛んに 研究が行われている。それにより、双極子モーメントの強い極限では気-液転移 が消滅すること、ゾル-ゲル転移やネマティック転移と目される現象が観察され ることなどが知られているものの、この系の相図全体の様相については、ようや く概形的な描像が得られた段階である。 それらの双極子粒子系の特殊な一例として、今回取り扱うIsing型二成分双極子 粒子系と呼ばれる系もまた興味深い特性を示す。この系は、二次元平面上を運動 する粒子各々が運動面に垂直な上向きまたは下向きの双極子モーメントを持つた め、相互作用は等方的ながら粒子種により引力・斥力のフラストレーションが存 在する系である。我々はシミュレーションにより、この系において気-液臨界転 移温度と凝固がほぼ同時に起こり結果的に気-液相分離が起こらない(液相が存在 しない)という奇妙な現象を見出した。  上記の現象の理論的考察を行うために、解析的に状態方程式をビリアル展開を 行うことで相転移の様相を調べた。通常のMayer-Mayer 展開では三次まで展開し てもシミュレーション結果を正しく再現しなかったが、4粒子の基底配置に対応 する正方状の四量体分子が混合していると仮定した“ tetramer mixture モデル” を考案し、このモデルに対する展開計算を行うことで定量的な一致をみた。さら に隣接した臨界点・凝固点も再現することに成功した。これによって、超臨界流 体相において、すでに局所的には基底配置クラスターが形成され始めており、こ のため固体秩序状態と液相の自由エネルギーが非常に近い値を持ち、両者の転移 がほぼ同時に起こるという理解が可能になった。  また、二成分間のモーメント比、粒子数比などのパラメータを変えた場合の 気-液臨界転移、凝固転移の関係の変化についても、シミュレーション結果を示し つつ、局所構造と対応させた系統的な解釈を示したい。


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名古屋大学 情報科学研究科 複雑系科学専攻 多自由度システム情報論講座